生前贈与を考える人にとって、「相続時精算課税制度」による非課税枠2500万円は大きな節税のチャンスです。
しかし、制度の仕組みや条件を誤解すると、後の相続時に思わぬ課税トラブルが発生する可能性があります。
この記事では、生前贈与の非課税枠2500万円がどういった制度なのか、誰が使えるのか、どのような注意点があるのかをわかりやすく解説します。
2024年度の税制改正による再審制度についても最新情報を交えて紹介します。
制度を活用する前に正しい知識を身につけ、安心して資産を次世代へ引き継ぐための参考にしてください。
生前贈与の非課税枠2500万円とはどういう制度?
この章では、2500万円の非課税枠がどういう制度なのかを、相続時精算課税制度の概要とともに解説します。
相続時精算課税制度を使うことで非課税枠2500万円が使える
相続時精算課税制度とは、生前贈与された財産のうち累計2500万円までを贈与税なしで受け取れる制度です。
ただし、贈与時には税金がかからない代わりに、相続が発生したときにそれまでの贈与額も含めて相続税が計算されます。
この制度は、2003年に創設されて以来、高齢者の資産を早めに若い世代に移転させることを目的に導入されました。
詳しい制度内容は国税庁の公式ページ「相続時精算課税制度」をご参照ください。
非課税枠2500万円を活用することで、大きな財産移転が可能となり、相続対策に有効です。
60歳以上の親や祖父母から20歳以上の子や孫への贈与が対象
制度の対象となるのは、60歳以上の親や祖父母が、20歳以上の子や孫へ財産を贈与する場合です。
どちらも直系の続柄である必要があり、友人や兄弟などには適用されません。
また、2022年以降、成年年齢は18歳に引き下げられましたが、本制度では引き続き「20歳以上」が対象年齢です。
対象者の年齢や続柄についての詳細は、国税庁の「相続時精算課税制度に関するFAQ」を確認しましょう。
贈与者と受贈者の関係性と年齢条件は、制度利用の最重要ポイントです。
贈与税が一時的にかからず、相続時にまとめて精算される制度
通常の贈与では、贈与を受けるたびに贈与税が発生しますが、相続時精算課税制度ではこの点が異なります。
非課税枠2500万円以内の贈与には贈与税がかかりません。
ただし、相続発生時に、これまでの贈与額が相続財産に加算され、相続税が計算されます。
つまり、税金を「後回し」にしている形です。
贈与税を一時的に回避できる一方で、将来の相続税額に影響を及ぼすため、ライフプラン全体を見据えた活用が求められます。
「今は税金がかからない=最終的に無税」ではないことに注意しましょう。
生前贈与で非課税になる2500万円はどんな人が使えるのか?
制度を利用するには、特定の年齢や続柄などの条件を満たす必要があります。
贈与者が60歳以上であることが条件
相続時精算課税制度の利用には、贈与する側(贈与者)が60歳以上であることが必須条件です。
この年齢制限は、制度の趣旨である「高齢者の資産移転」を促すために設けられています。
したがって、親が50代のうちに子へ財産を移したい場合には、この制度は利用できません。
年齢条件は贈与が行われた年の1月1日時点で判定されます。
つまり、贈与者が12月生まれでその年中に60歳になる予定でも、年初時点で59歳であれば制度は利用できません。
受贈者が20歳以上の直系卑属(子や孫)であること
財産を受け取る側(受贈者)は、20歳以上の子または孫に限られます。
20歳未満の子や孫は、制度の対象外です。
この点は、贈与契約書の作成や税務申告の際にも重要な確認項目となります。
また、養子も戸籍上の子として制度を利用できますが、兄弟姉妹や甥・姪などの親族は対象になりません。
直系卑属の範囲について不安がある方は、国税庁の続柄の定義をご確認ください。
一定の続柄や年齢条件を満たした場合に限られる
制度の適用は、単に「贈与したい」という意思だけでは成り立ちません。
贈与者・受贈者ともに法律上の条件を満たしている必要があります。
贈与者が60歳未満であったり、受贈者が20歳未満だった場合、制度を使っても非課税の適用は受けられません。
また、法人や友人などへの贈与には本制度は一切適用されません。
適用条件を誤ると後の相続時にトラブルの元になるため、制度を使う前に専門家に確認することが大切です。
生前贈与の非課税枠を使うための条件と注意点
非課税枠2500万円を活用するには、いくつかの重要な条件と注意点があります。
制度を正しく理解して適用することが失敗を防ぐカギです。
非課税枠は累計で2500万円までである
相続時精算課税制度では2500万円までの贈与に対して贈与税が非課税となりますが、これは1年あたりの限度額ではなく、「累計額」です。
たとえば、1年目に1000万円、2年目に1500万円の贈与をした場合、そこで非課税枠は使い切ったことになります。
2500万円を超えた贈与については、一律20%の贈与税が課されます(参照:国税庁・相続時精算課税の贈与税率)。
計画的な財産移転のためにも、累計額をしっかり管理しておくことが重要です。
一度制度を選択すると暦年贈与には戻れない
相続時精算課税制度は、一度選択するとその後は撤回できません。
つまり、その年以降の贈与については、毎年110万円まで非課税となる「暦年課税制度」に戻ることができません。
この制度の選択は税務署に提出する申告書で行い、選択後はすべての贈与に相続時精算課税が適用されます。
慎重な判断が求められるため、可能であれば税理士など専門家と相談のうえ制度を選択することをおすすめします。
不動産などの贈与には登記費用や登録免許税が発生する
非課税枠を使って不動産を贈与する場合、贈与税は免除される可能性がありますが、登記にかかる登録免許税や司法書士費用は別途必要です。
不動産の名義変更には「登録免許税」が課され、これは評価額の2%が目安です(参考:法務省 登記制度について)。
たとえば、評価額2000万円の不動産を贈与する場合、約40万円の登録免許税がかかる計算になります。
さらに司法書士報酬なども必要となるため、不動産の贈与には税金以外の費用も考慮しておく必要があります。
相続開始後に相続税として精算される点に注意
この制度の最大の特徴は、相続が発生した際に、それまで贈与された財産の合計額を相続財産に加えることです。
つまり、生前に贈与しても「最終的には相続の対象」となり、相続税が課される可能性があります。
そのため、相続税の計算上有利になるかどうかは、相続人の人数や他の財産の額など総合的に判断する必要があります。
事前に家族構成や財産状況を整理しておくことが大切です。
生前贈与の非課税枠に関する再審制度とは?
2024年の税制改正で、「相続時精算課税制度の適正運用」を目的とした新たな再審制度が導入されました。
2024年度の税制改正で再審制度が新設された
2024年度の税制改正により、制度の不適切利用を防止するための「再審制度」が新設されました。
これは、贈与の形式が整っていても、実態として「名義預金」や「仮装贈与」と判断された場合に、制度の適用が否定される可能性があるという仕組みです。
再審制度の対象は、税務署による調査や申告内容の確認時に明らかになります。
制度の詳細は、財務省の税制改正資料(令和6年度税制改正大綱)をご参照ください。
不適切な贈与と判断された場合に精算課税が適用されない可能性がある
たとえば、「形式上は贈与されたが、実際は親が管理していた」「子が自由に使えなかった」という場合、贈与の実態がないと判断され、制度が無効になることがあります。
この場合、過去に非課税とされた贈与についても、さかのぼって課税されるリスクがあります。
贈与契約書の作成や通帳の管理など、形式と実態の両方を整えることが必要です。
不安がある場合は、税理士やファイナンシャルプランナーに相談するとよいでしょう。
税務署が審査を行い、制度適用の可否を判断する仕組み
再審制度では、制度の利用申告後に税務署が制度の適用の可否を審査する仕組みになっています。
制度利用の際には、贈与契約書や通帳のコピー、贈与金の使用実績など、提出すべき証拠資料が必要になります。
このように、形式だけでなく、税務署が「実態として贈与と認めるか」を厳格に判断するようになりました。
安易な制度利用は避け、準備と証拠書類の保存を徹底することが求められます。
生前贈与で非課税枠2500万円を活用する際の手続きの流れ
制度を正しく利用するためには、所定の手続きを確実に行うことが大切です。
この章では、具体的な手続きの流れを順を追って解説します。
贈与契約書を作成する
まず最初に行うべきことは、贈与契約書を作成することです。
贈与は「契約」として成立するため、贈与者と受贈者が内容に合意した証拠が必要になります。
贈与契約書には、贈与する金額や財産の内容、贈与日、署名・捺印などが記載されている必要があります。
契約書がない場合、税務署から「贈与の実態がない」と判断される可能性があります。形式を整えることが、非課税適用の前提条件です。
手書きでも構いませんが、念のため公証役場で確定日付を取得することをおすすめします。
贈与を受けた翌年の2月1日~3月15日に贈与税の申告をする
非課税枠を利用した贈与であっても、税務署への贈与税申告は必須です。
相続時精算課税制度の適用を受けるには、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日の間に、贈与税申告書を税務署に提出する必要があります。
この期限を過ぎると制度の適用が認められず、通常の贈与税が課される可能性があるため、注意が必要です。
期限内の申告を怠らないよう、スケジュール管理を徹底しましょう。
相続時精算課税制度を選択した旨を申告書に記載する
贈与税申告書には、「相続時精算課税制度の適用を受ける」ことを明記し、専用の選択届出書を添付する必要があります。
この届出を提出しなければ、制度の利用が正式に認められません。
贈与税申告書には、贈与契約書や財産評価額の根拠資料、不動産であれば固定資産評価証明書なども添付が求められます。
詳細な書類の記載方法については、国税庁の贈与税の申告ページで確認できます。
税務署に必要書類を提出する
準備が整ったら、所轄の税務署にすべての書類を提出します。持参・郵送・e-Tax(電子申告)いずれでも可能です。
e-Taxで申告する場合には、マイナンバーカードやICカードリーダーが必要になります。
書類に不備があると受理されなかったり、後から追加提出を求められることもあるため、提出前のチェックリストを用意しておくと安心です。
申告後は控えをしっかり保管し、相続発生時に備えましょう。
生前贈与の非課税枠2500万円と他の非課税制度との違い
相続税・贈与税対策としては、相続時精算課税制度以外にも非課税の特例があります。
それぞれの特徴を理解し、目的に応じて選びましょう。
暦年贈与は毎年110万円まで非課税だが、相続時精算課税は累計2500万円
最も一般的な贈与の方法は「暦年贈与」です。これは、1人あたり年間110万円までの贈与が非課税となる制度です。
110万円以内であれば、申告も不要で贈与が可能なため、手軽に活用できます。
一方で、相続時精算課税制度は累計2500万円まで一括または複数年にわたり贈与可能ですが、一度選択すると暦年贈与に戻れない点に注意が必要です。
長期的に少額ずつ贈与したいなら暦年贈与、大きな財産を一度に移したいなら相続時精算課税制度という使い分けが基本です。
教育資金贈与特例は学校関連の支払い限定で使える
「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置」は、30歳未満の子や孫に対して、最大1500万円まで非課税で贈与できる制度です。
ただし、資金は学校の授業料や塾・習い事の費用など「教育目的」に限られます。使途制限があるため、自由に使いたい場合には不向きです。
教育資金贈与の詳細は文部科学省の資料(文科省 教育資金の一括贈与に関する情報)をご確認ください。
結婚・子育て資金贈与特例はライフイベントに限られる
「結婚・子育て資金の一括贈与非課税特例」では、最大1000万円までを非課税で贈与可能ですが、対象は結婚費用や不妊治療、保育料などに限られます。
また、受贈者が50歳になると未使用分に対して贈与税がかかる点も注意が必要です。
それぞれの制度には目的・条件・制限がありますので、制度の目的に応じた使い分けが必要です。
生前贈与の目的を明確にし、最適な制度を選びましょう。
生前贈与の非課税枠2500万円に関するよくある質問
ここでは、実際によく寄せられる疑問をQ&A形式で解説します。
不動産を贈与しても2500万円の非課税枠は使える?
はい、可能です。不動産も対象財産に含まれます。
ただし、評価額の算出方法や登記費用に注意が必要です。
評価額は固定資産評価額を基準とするため、贈与前に役所で確認しておくと安心です。
また、登録免許税や不動産取得税がかかる場合もあるため、費用のシミュレーションも忘れずに。
2500万円を一度に贈与しなくても大丈夫?
もちろん問題ありません。数年に分けて贈与し、合計が2500万円までなら非課税で済みます。
ただし、累計金額はしっかり記録しておく必要があります。
相続時に精算されるとはどういうこと?
制度を使って贈与された財産は、最終的に相続時に相続財産に加算されて相続税が課されます。
そのため、節税になるかどうかは他の相続財産の状況次第で変わってきます。
制度をやめたいと思ったらどうなる?
残念ながら、一度制度を選択すると、途中でやめたり、暦年課税に戻ることはできません。
制度選択は慎重に行い、ライフプランや資産状況をよく考えて判断しましょう。
まとめ|生前贈与の非課税枠2500万円の制度を正しく理解して活用しよう
生前贈与における非課税枠2500万円は、相続時精算課税制度を利用することで適用される仕組みです。
60歳以上の親や祖父母が、20歳以上の子や孫に対して利用でき、累計2500万円までの贈与が非課税となります。
制度の仕組みと条件をしっかり理解して使うことが大切
制度の選択は一度きりで、取り消しや変更はできません。
贈与の実態や書類の整備も求められます。
再審制度も新設された今、制度の適用条件を正しく理解してから利用することが何よりも重要です。
ライフプランに応じて暦年贈与との使い分けも検討しよう
大きな資産を早期に移したい場合は相続時精算課税制度、長期的に少しずつ贈与する場合は暦年贈与が向いています。
教育資金や結婚資金などの特例制度と併用することも可能なので、家族構成や目的に応じて制度を選びましょう。